開催のごあいさつ

 3月に開催予定だったサンシャインクリエイション2020 Spring、その幻のカタログの冒頭ごあいさつ、確か2月上旬に書いたその文章を読み返すと、半年も経たないうちに世界が一変してしまうことなど、全く予想していませんでした。5月のコミケット98が中止になり、そしてついに12月のコミケット99の延期も発表されました。同人界は46年ぶりに「コミックマーケットの開催されない年」のまっただ中にいます。

 そんな中でも6月下旬以降、各地で同人誌即売会――特に中~大規模のイベントが再開しています。まずは、開催を楽しみに待っていて下さったサークルさん、一般参加者さんが多数いることに、心から感謝したいと思います。さまざまな規模・地域の同人誌即売会が、それぞれの環境の中で最大限努力し、開催の活路を見出そうとしています。すべての主催者のみなさんに、改めて敬意を表します。

 こういうご時世だから、いったん開催しなくてもよいのではないか? という声もあるかもしれません。しかし、敢えて「同人文化を未来につなげるために、同人誌即売会というリアルの場を、形式にとらわれず開催しつづけるべきである」と信じます。

 まず、同人誌即売会が開催されないことで、同人誌の発行は少なくなっています。一見、まず作品があり、それを頒布する同人誌即売会があるようにも見えますが、現実にはイベント合わせの”締め切り効果”が、作家さんに”修羅場モード”的なパワーをもたらしているのでしょう。これは、論文と学会の関係にもあることなので、普遍の真理なのだと思います。

 次に、逆の視点から同人文化が完全にデジタル化するリスクにも言及しておきましょう。デジタルの世界では規模の効果が大きく働き、amazonのような巨大プラットフォーマーが生まれます。流通を支配するプレイヤーによる自主規制は、事実上の表現規制をとなるため、冷静に考えればかなり危険な状態です。雑誌の世界での「青少年条例による連続有害指定 → 取次が自主的に取り扱わない → 廃刊/休刊を余儀なくされる」と類似のメカニズムであり、表現の自由についてのリスクが高まります。

 そして、デジタルを軸足とした活動は、企業の二次創作に対する態度を変容させる可能性があります。デジタルコンテンツの限界費用(1つ製造するのにかかる費用)は限りなくゼロに近いので、ファンによる趣味の活動として「適正な対価を受け取って頒布する」ことを黙認するのとは、話が変わってきます。もちろん、積極的に取り締まろうという企業は多くはないでしょうが、指摘があれば動かざるをえないのも事実です。

 このようにして、リアルの場の必要性について理論武装しておくことも大事なのですが、一方で単純に「リアルの場が楽しいから」という感情も大切にしていきたいです。ハレの日にファンが集うことによって生まれる共同幻想、人が多く集まることにより生まれる熱狂、その時・その場にしかないという焦燥感、そして作家さんや本との偶然の出会い――ここにはさまざまな楽しさが満ちています。

 もちろん社会の中で開催している以上、十分な対策は必要ですが、人間はパンのみに生きるにあらず。心の楽しさを求めるのは大切なことですし、過度の自粛は文化をインフラごと破壊してしまうだけです。普段お世話になっている印刷会社・同人書店・会場といった方々と共存共栄を図り、この楽しさを次代につなげていくために、クリエイションは8月2日に「開催する」という選択にたどり着きました。ここで「新しい様式」の同人誌即売会への手がかりを捉え、未来の参加者にクリエイションを届けていいきたいと思います!

 そういう中で掲げた「Creation: Re-Creation」には、同人文化を「表現の場を、再び参加者と一緒に作り上げる」「参加者とハレの日を祝い、みなで楽しむ」という想いを込めました。コロナへの反撃の狼煙を上げましょう! DOJIN IS NEVER DEAD!!

 ※中止によって発生した印刷費やレンタル費、中止・延期による事務局の維持運営費をまかなうため、クラウドファンディングを開始しました! 公式Twitterのトップに置いてありますので、ご一読下さいますと幸いです。ご支援よろしくお願いいたします!

クリエイション事務局一同