開催のごあいさつ

 サンシャインクリエイション2023 Summerにご参加いただき、ありがとうございます。今回はプチオンリーが5つ、お申し込みをいただいたサークルさんのスペース数も、昨年に比べると大きく増えました。長い夜がようやく明けつつある、そんな想いです。

 日常が戻ってきた、そう言ってもよいのでしょう。感染者は増えているらしいですが、正確な数を知る術はなくなり、マスクの着用は任意となり、宴会も後ろめたくなくなり、会社には物理的に出勤しなくてはいけなくなり、ターミナルや観光地はインバウンドの方々で混み合い、新幹線の座席も徐々に回転しつつあります。あれだけ声高に言われていた「新しい生活習慣 (New Normal)」も、もはやマルチメディアとか、ユビキタスとか、Web3くらいのバズワードに聞こえつつあります。

 「DOUJIN JAPAN 2020」によるガイドラインも撤廃され、名実ともに同人誌即売会に元の姿が戻ってきました。マスクの着用義務、入場時の検温・消毒、机の間の衝立、スペースでの飲食制限、参加者同士の会話の自粛要請など、もうありません。もちろん、それぞれの事情に応じ、それぞれが適切な自衛をすることは構いません。どうか「任意」という言葉の意味をみなが理解して、互いの自由を束縛することのないよう、心から願います。

 あるバンドが、横浜のぴあアリーナMMでの声出し解禁ライブの最後の一曲、歌詞を変えて、「ひとまず今日までおつかれさん」って歌ってるのを聞いて涙したのですが、今回の開催に際しての心境も、それと一緒です。本当にみなさんおつかれさまでした。我々は、耐え難きを耐え、ルールとモラルに則って戦い抜きました。その結果として、今日のこの場があります。共に健闘を称え、拍手しましょう。当日の開会あいさつでそういうことを言うので、みんなで日常を取り戻したことを祝いあいましょう。たぶん私は泣きます。でも、あいさつは30秒以内に終わるようにします。よろしくお願いします!

 最後に少しだけ、内輪の話をさせて下さい。約20年にわたりサンクリのコアメンバーとして活躍し、近年は唯一の常勤メンバー、ニュース編集長だった”ちーふ”ことM君が、先日この世を去りました。そういう意味で、すごく私的な話なので主語を”ぼく”にさせてもらいますが、なにも日常など戻ってきてないのです。もちろん、事務的に大変とか、そういうこともあります。でも、いつもそこにいたはずの人が、そこにいないという喪失感に、ぼくはあまりに耐えられず、お酒を飲み歩いたり、あちこちで踊り明かしたり、いろいろなことをして、いろいろな人にご迷惑をかけました。この場を借りて、お詫びします。でも、前を向いて進まないといけない、そういう安い話で片付けたくないなんて天邪鬼なことを考えるのは、表現の場に携わるちっぽけなぼくのプライドなのでしょうか。

 ぜんぜん「少しだけ」じゃなくなってしまいました。読者のみなさんにもお詫びしないといけないですね。年月は過ぎ、季節は巡る。忙しい日々の中で、彼のことで感じた痛みも哀しみも、たぶん癒えていくのでしょう。でも、彼のことを公式の媒体に記したく、紙面をお借りしました。ほとんどのみなさんにとっては会ったこともない人の訃報、そんな暗い話などやめておけばいいのですが、それでも、なにか本とか紙とかの物理的な媒体に書かれた文書が、頼りなく薄れゆく記憶に抗いつつ、少しでも未来の人々に繋がっていく――それこそが”新しい生活様式”の中でぼくたちを悩ませてきた、リアルの場の存在意義なのでしょうか。そんな身近なところに答えがある。世界は悉く理不尽です。勝手な想像ですが、開催当日を楽しむことが彼の遺志、何よりの供養かと思います。今日を迎えられなかった人たちの分まで、今日を迎えたみなさんで楽しみましょう、合掌。当日はよろしくお願いします!

 晴れたらいいね! 空にいるなら、晴れさせるくらい頼んでもいいよね。またね。

クリエイション事務局代表 岡安 英俊